甘えてる

「お前の人生なんやからお前の好きなようにしたらいいと思う」

さっきおとんが僕に向かって言った言葉。


一週間ほど前の僕とおかんとの会話。

「3月過ぎたら1人暮らししようかと思うんやけど」

「金もかかるんやで。どれぐらいかかるか分かってる?」

「そのために今も貯めてる」

金の心配も確かにしていたんだと思う。

「正直、お父さんと2人でってのは心配やわ」

おかんは笑って少しぼかしながら言った。
でもそれが本心から出た言葉だというのはすぐに分かった。

そう考えて僕の1人暮らしをやんわり辞めさせようとしている
ことは薄々ながら勘付いていた。
でも、それは自分が実家にいれば楽が出来るから
正当化しようとして自分が勝手に作り出した理由かもと思っていた。
ずっと楽したいがための妄想ではないかと。

自分が勝手に考えてしまったんだと思っていたことが
他人の口から出た時、何故だか妙にショックを受けた。
普通、自分が想像していた答えを相手が出した場合はショックは少ない。
でも、あまりに想像通りの答えが出てきたことがショックだった。

大の大人が隠していた本心をさらけ出して語ったこと、
母親が子である自分に対して甘えていることを認めたこと、
それを言われてしまうと自分は切り捨てることが出来ないこと、
いろいろなことが一気に分かってしまったからかもしれない。

僕とおかんは戦友だ。
半分狂ったかのようになってしまったおとんを
とても1人でどうにか出来たとは思えない。
1人で病院まで連れて行けたかすら分からないし、
まず1人でどうにかしようとすると精神的におかしくなっていたと思う。


  またあんな事態になれば


考えてしまうとおかんを残して行くことが出来ない。
だから考えないようにしていた。
実家にいては甘えてしまうからと、そう考えるようにした。
でも、違った。

実家にいるのが苦痛なワケではない。
自分の部屋も確保されているし、家事全般やらなくて済む。
今のところおとんも大丈夫だ。

おかんにとって僕はいて欲しい人なのだろう。
しかし、ぬくぬくと甘えた生活をしてしまっている自分に
罪悪感を感じずにはいられない。自立できていない。

オヤジはおかんや僕のこうした心情を考えていないのだろうか。

「お母さんはあまり1人暮らしして欲しくないみたいなこと言うてたけど、
 お前の人生なんやからお前の好きなようにしたらいいと思う」

何も言えなかった。
僕のためを思って言ったんだろうか。きっとそうだと思う。

オヤジの罪は周りの心情を考えられていない点だろう。
でも、全く考えていないワケではない。罪と言えるほど酷いものではない。
憎むべきは何なのだろう。

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